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2017年6月

2017/06/18

恩師への手紙

拝啓、先生いかがお過ごしでしょうか?

こうして手紙を書いていると、以前のように用語や文章表現について、こと細かくビッシッと研削された返信を頂くようで、なんとなく躊躇しています。

でも、そんな返信をいただければ、先生はご健在であるということではないか!と思いなおし、記憶を遡って書いています。

早速本題に入らさせて頂きます。

もう10年以上も前でしょうか、おそらく僕かS氏のところで勉強会があったときです。

いざ焙煎に入るために、釜を温めようとして、焙煎機を空焚きした時、「なぜ、焙煎機を温めるのですか?」と先生は詰問されました。

思いもかけない、と言うより、覚悟していた詰問に反論できなかったことを思い出します。

「あれほど説明したのに、貴方は理解しているのですか?」といった先生の落胆の感情が伝わってきたのと、しかし先生に教えて頂いたノウハウでは、うまく焙煎できない現実をどう伝えてよいかを躊躇してしまったからです。

先生からご指南いただいたノウハウ、すなわち低温焙煎のノウハウは、●焙煎工程を前半と後半に分け、前半を水抜き工程とし、後半を成分進化の工程とする。●前半は低い釜の内部温度で水抜きをして、●後半は釜の内部温度を一気に上げて成分進化を即す。、、、というものでした。

そして、●水抜き中は釜の内部温度をできるだけ上下させずに一定させる。そして水抜き時間はいくらかかってもかまわないという条件でした。

カッピングコンセプトから導き出された、この画期的な低温焙煎ノウハウは、当時焙煎の迷路にはまりこんでいた僕たちにとって、まさに救世主でした。

先生がサンプルロースターで行ったデモは衝撃的でした。

焙煎開始から、か細い炎でジ~~と水を抜いていき、かなりの時間がたった後、サンプルスプーンで水抜けの状態を鼻で感知して、水抜けを感知したら、すぐさま火力を最大にして成分進化を即して、1ハゼ手前あたりから火力を絞っていき、最後は色合いをみて、好みのところで終了するというものでした。

まさに焙煎コンセプトを具体化した解かりやすい焙煎方法でしたが、正直にもうしますと、このノウハウを本焙煎に適応しても上手く煎ることが出来ませんでした。

他のメンバーたちは何度となくトライしても上手くいかず、当時を前後して伝播してきたアメリカのスペシャルティコーヒーロースターの高温短時間焙煎にシフトしていきました。

ライトからフルシティ、フレンチまで、およそ11分~15分で焙煎するこの高温短時間焙煎は、今では国内の真っ当なスペシャルティコーヒーロースターたちに焙煎の定番として普及しています。

というより国内の真っ当な焙煎業者にも、スペシャルティコーヒーがどうのこうのといわれるずっと前から、高温短時間焙煎は定着していた事実から考察すると、焙煎の定番みたいなもので、たまたまアメリカや欧州のスペシャルティコーヒーロースターと一致したにすぎないと思います。

そういう意味では、世界標準の定番としての焙煎ノウハウであり、たまたま国内の焙煎ノウハウに関しての閉鎖的な体質が、スぺシャルティコーヒーの伝播で切り崩され、多くの新規参入ロースターに広く認知されるに至ったということだと思います。またネットの普及もその背後にあると思います。

ただ、高温短時間焙煎は先生も十分ご承知のとおり、フレバーやスイーツが表現されても、アフターやマウスフィールが歪で、特にエスプレッソではその欠点がもろに出てきてしまいます。

他の抽出領域(ペーパードリップ、etc)では、その欠点が出てきても、最初の違和感は飲んでいる途中から、慣れてしまって違和感が薄れてきますから、エスプレッソが主流の国以外では、この欠点の認識はさほどなされなかったと思います。

また、エイジングという手法がエスプレッソでもてはやされるのは、違和感が時間経過による劣化によって減少したからにほかなりません。これは単に聞こえの良いフレーズであって、正道ではありません。

ですから、この欠点を認識して、エスプレッソそのものを焙煎から再考察して、構築された焙煎ノウハウが欧州、特にイタリアを中心にして発展してきたと思います。一部の欧米のロースターはこのことを認識していて、密かにノウハウを伝承してきたと想像できます。

先生の提案された低温焙煎ノウハウはまさにこのノウハウであった思うのです。


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さて、この低温焙煎ノウハウがサンプルロースターで上手くいき、本焙煎で上手くいかないのは、なにが原因であるか?と僕は必死で考えましたが、高温短時間焙煎と比較すればその解答は見えてきました。

高温短時間焙煎はピンポイントで、投入からの焙煎時間と豆の表面温度を一致させていけば完成します。

特に後半の11分以降から豆の表面温度をしっかりと管理することがポイントですが、この後半のペースを低温焙煎のノウハウで実行すると、ほとんどの焙煎機が火力不足で、後半の11分以降の豆の表面温度の展開が不可能になります。

そんな低温焙煎では”火力不足”の焙煎機でも、高温短時間焙煎が可能なのは投入から5~7分で高い内部温度を確保しているからで、それを維持しながら余裕を持って豆の表面温度のペースをコントロールできるからです。

それに対し、低温焙煎は低い内部温度で推移するため、いざ水が抜けた段階で釜の内部温度を上げて、豆の表面温度を時間内に上げようとしても、釜の火力が結果として脆弱で、思うように上がってくれないのが現実でした。

そもそも、サンプルロースターと本焙煎用のロースターは同じよう構造(シリンダーやバーナーの構造・容量)なのに、なぜサンプルロースターが低温焙煎が可能なのか?という素朴な疑問は、まさに排気構造に原因があると思うのです。

サンプルロースターは強制排気ではなく、あくまでも自然排気であり、火力を上げれば想像以上に豆の表面温度の上昇につながっていることが要因であると思います。

また、多くの場合シリンダー容量に比べ投入量は少なめで、かつ水抜き工程ということで、ガス圧が控えられていても、自然排気のため想像以上のカロリーが豆に供給されていると思われます。

そして、実際にサンプルローストでまともなカップが出てくるのは13~15分であったと思います。

浅煎りでこの時間帯であることは、かなりのカロリー供給で、まさに短時間焙煎に近くなっています。

サンプルローストのイメージから強制排気の焙煎機で本焙煎をすることが、そもそも間違っていたようです。

強制排気でガス圧を控えて、ただダラダラと時間をかけていただけだったので、爽やかさや明るさも失われた結果となりました。

また、後半でも釜の内部温度が低すぎて、速やかに上がりにくいということで、成分進化がお粗末な結果となりました。

以上の検証から、強制排気の焙煎機で低温焙煎を行う場合は、更なるバーナーの増設とダンパー操作の工夫によって、解決できることが見えてきます。

また、前半の水抜き工程も、ある程度の強いガス圧が必要ではないかと推察されます。具体的には、水抜け手前の段階で内部温度が180度前後で推移していけば、サンプルロースターの前半と同じ推移となると思います。

高温短時間焙煎での、この段階では200℃以上になっており、低温焙煎の180℃前後との差がそもそも、“低温”という呼称になっているということです。

僕はここに至って、バーナーの増設を決意して、バーナーを増設しました。

どのくらい増設すれば、高温短時間焙煎の後半をトレースできるかはわかりませんが、とりあえず町の知りあいの鍛冶屋さんに依頼して、メーカーから取り寄せたチップとバーナー12本を、焙煎機の内部に納めていただきました。

もちろんこの12本のバーナーは本体のバーナーとは別のガス源にして、必要なときにONできるようにしました。

かなり過激なカロリーになりますが、その結果は劇的な効果を確認できました。

とにかく、速い時間内に釜の内部温度が立ち上がり、その結果として、豆の表面温度が11分の時点で191℃前後にいたることが可能となりました。

このように書くと、バーナーを増設した結果すぐに低温焙煎が可能になったと、思われますがそうでわけではなく、かなりの紆余曲折がありました。

釜の内部温度をどこまで引き上げてよいか?(内部温度の最大値)とか、投入量は?デベロップメントサイクルは高温短時間と同じでよいか?水抜けの判断はいつが良いか?豆の産地の標高やクロップの差(=硬度の差)によってどう変化するか?、、、とかさまざまな課題があって、それを一つ一つ詳細にカップをとりながら判断しなければなりませんでした。

このあたりの詳細な経過報告は僕の“焙煎日記”お読みくだされば幸いです。

ここで重要なのは、こうした紆余曲折による検証も、バーナーの増設で釜の内部温度が速やかに上昇することが出来たから可能であって、バーナーの増設がなかったら、すべての検証が不毛になったことです。

まさに低温焙煎においては、必要なときに圧倒的な火力を引き出せる焙煎機が大前提であることがわかりました。

これは先生がとくに強調していた点で、それを実証できました。

2017/06/02

デベロップメントサイクル(補足Ⅱ)

投入から豆の表面温度が167℃に至る時間が6分から、7分に延長した時、劇的な変化が訪れました。

1分延長したのは、6分だと水抜けがなんとなくしっくりいかないと判断したからですが、後半の成分進化の工程をきちっりと同じにすれば、その判断が正しかったかは、カップに如実に現れてきます。

結果として、クリーンカップが出てきましたから、判断は正しかったわけです。

それよりも思いもかけずに得た収穫は、水抜けのタイミングが若干早くなった結果、早めに釜の内部温度を引き上げることが出来、成分の進化をより適正に進化させることが出来きたことです。

6分の場合,水抜けは2分後の8分前後に完了しますが、1分延長して7分の場合、水抜けは同じように2分後の9分前後ではなく、若干前倒しになって、8分45秒前後になります。

このことは、通常より15秒も早く釜の内部温度を引き上げることができ、釜の内部温度の上限の230℃まで早く到達することができます。成分の進化をより高い温度で、かつ長く即すことができ、風味特性を向上させることが出来たわけです。

このことから、もっと早く水抜けが完了することができれば、より早く釜の内部温度を引き上げることができ、理想的な風味特性を表現することが可能となるはずです。

例えば8分30秒前後で水抜けが完了すればよいわけで、そのためには水抜きの工程をさらに延長すれば可能性が出てきます。

延長は豆の表面温度が167度に至る時間を1分ずつ延ばしていけばよく、たとえば、8分で167度に至らせたとき、水抜けが9分45秒前後ではなく、9分30秒に前倒しになっていれば成功です。

このときトータルの時間は12分で、水抜き工程を1分延長した分だけ長くなるように、成分進化の工程をきっちりと同じにすることがポイントです。

さらに1分ずつ延長していけば、トータルで13分、14分と延長していくわけですが、これではもはや“低温短時間焙煎”とはいえなくなってきます。

焙煎のトータル時間が違ってきても、焙煎度合いは少ししか変わっていません。それは延長は前半のみで、後半はきっちりと同じ進行を守っていることからですが、適正な焙煎時間、、、そう、焙煎度合いから開放された、焙煎そのものの適正時間はあるのか?という究極の課題も視野に入ってきました。
「purofairu.xlsx」をダウンロード


添付のファイルは投入から7分で豆の表面温度が167度に至るペースのプロファイルで、Aが9分の時点で釜の内部温度を引き上げたもの、Bが8分45秒で、Cが8分30秒で引き上げたものです。

7分の時点でカウントして、4分後の11分で豆の表面温度が191~2度前後に至るようにコントロールしていくわけですが、その間に水抜けのタイミングを確認してから、火力を最大にして釜の温度を引き上げていくという作業を伴いますので、水抜けが奥に行くほど、残された時間は非常にタイトになり、成分進化が十分ではなくなってきます。

ファイルは水抜けとは関係なく、機械的に9分・8分45秒・8分30秒で内部温度を引き上げたものですが、今までの経緯からAもBも水抜けが完了していることは、お解かりいただけると思います。

まずここで注目していただきたいのは、内部温度の引き上げの最大値である230度に至るまでの時間差と、投入から9分の時点での内部温度の差です。

最大値230度というのは、それ以上の内部温度では成分進化が歪になり、アフターやマウスフィールが刺激的になります。

Aの場合、10分になっても230℃に至りません。9分で火力を上げるのは遅すぎるわけですが、これを改善しようとすれば、バーナーをもっと増設して、BやCのように9分40~50秒台にいたるようにすれば解決するように思いますが、ところがどっこい上手くいきません。

バーナーを増設した結果、9分50秒で230℃に至っても、過激な火力が豆の表面を必要以上に焼いてしまい、その結果、風味特性をマスキングして、刺激的なアフターやマウスフィールを作り出してしまいます。

こうした強力な火力の場合、10分で240℃以上に至りますから、カップから「240℃はだめ!」と判断しますが、直接の原因は過激すぎる火力であることが分からなければ焙煎は見えてきません。

火力が過激すぎる場合、内部温度が230℃に至る過程ですでにマスキングが起こってしまっているからです。温度表示では解釈できない一端がここにあります。

僕の場合、過激すぎる火力から、一本一本バーナーを減らしていって、最大火力でもマスキングが起こらないバーナーの最大本数(投入量で変化します)を導き出していきました。

そして、釜の内部温度が230℃になったら、それ以上には上昇させないようにガス圧を落としていきます。それ以上だとカップがやはり歪になるからです。

当たり前ですが、内部温度と時間経過によって成分の進化は左右されているからで、この意味では数値を基準にしていかなければなりません。

また、ブラジルのナチュラルのパーストクロップやドミニカのナチュラルは最大値を220~225℃に抑え、すぐにガス圧を下げていきます。こうしないと豆の表面温度の進行が急激に進行してしまい、11分で191℃前後というデベロップメントサイクルが崩れてしまうからです。

焙煎が迷路のようになるのは、このように原因が複雑に絡み合っているからです。

そして、今回の最大のテーマですが、投入から9分の時点での釜の内部温度が成分進化に大きく作用しているようです。

釜出しの11分まで2分の猶予がありますが、Aの場合、この時点で釜の内部温度を引き上げていきますから、内部温度は180℃前後です。そしてBは189℃、Cは199℃に至っています。

それぞれこの約10℃の差が、それぞれの成分の進化に決定的に作用することになります。

Aは明らかな進化不足のカップが出てきます。ドライ・クラスト・ブレイクでは遜色のない印象ですが、スイート・フレバー・マウスフィールでは印象が薄く、特に口から鼻腔に抜けていく、フレバーの印象がスポイルされてしまっていて、コーヒー自体の存在感が薄れています。

かつて恩師がよく「クットこない、、」といわれましたが、まさにこのことを表現していて、焙煎の工程に何らかの成分進化の工程を意図を持って焙煎しないと、単なるベイクドに終わってしまうことを警鐘していました。

Aの場合は成分進化の意図はあっても、あまりにも立ち上げが遅すぎるわけです。

Bはずいぶんと改善されてきます。特にフレバーのたちあがりよくなり、甘さやマウスフィールも改善され、ストラクチャリーな奥行きも出てきます。

Cになると、さらに質感・マウスフィールにおいて、オイリーなのか、ミルキーなのか、といったその詳細が認識できる次元に至ります。
ただ、水抜けと火力のアップが紙一重で逆になった場合、クリーンカップがスポイルされる危険性が多分にあります。
低温焙煎においては、常にこの危険性と隣り合わせであるわけです。
次回からはこの問題も含めて、“究極の焙煎時間=15分焙煎”にせまってみたいと思います。

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